中小企業の経営層の間で根強く囁かれているのが、「この調査を無視すると、腹いせに税務調査に入られるのではないか」「ものづくり補助金やIT導入補助金の審査で落とされるペナルティがあるのでは」という噂です。
結論から言えば、これらは完全な誤解です。統計法第40条および第41条には厳格な守秘義務と「目的外使用の禁止」が明記されています。調査によって集められた個別の財務データや企業情報は、統計作成以外の目的(徴税活動や行政指導、捜査など)に使用することが法律で固く禁じられており、違反した公務員には重い刑事罰が科されます。国税庁が中小企業庁の統計未提出者リストを入手して調査先に選定することは、行政組織の構造上あり得ません。
ただし、無視することによる間接的・構造的な不利益は存在します。中小企業庁が実施する各種施策(賃上げ税制、価格転嫁対策、設備投資支援など)の予算規模や要件緩和は、まさにこの実態基本調査から得られたマクロデータをもとに財務省と折衝して勝ち取られるものです。実態として経営が苦しい企業や、原材料高騰に直面している現場が「面倒だから」と回答を放棄すれば、統計上は「余裕のある優良企業」の回答比率が高まり、結果として中小企業向け支援策が縮小されるという皮肉な構造を生み出してしまいます。