東京に数ある蕎麦の名店の中でも、神田須田町の老舗蕎麦として別格の存在感を放つ神田まつや。その最大の魅力は、「格式張らない本物の大衆性」にあります。大正14年の関東大震災を経て昭和初期に再建された店舗は、東京都選定歴史的建造物にも指定されており、一歩足を踏み入れると下町の活気と木の温もりに包まれます。
作家の池波正太郎が自著『散歩のとき何か食べたくなって』などで度々その魅力を語ったことでも知られており、昼下がりから酒と肴を愉しみ、最後に手打ち蕎麦でサッと締める「そば前」のスタイルを確立した聖地としても語り継がれています。
神田まつやが世代を超えて支持される理由は、単なるノスタルジーではありません。帳場に座る女将さんやきびきびと店内を切り盛りする花番(給仕)さんの温かな気配り、そして創業以来守り抜かれてきた手打ちの技術が、来店客に極上の心地よさを提供しているからです。高級店のような気取りは一切なく、誰もが肩肘張らずに江戸の食文化を五感で楽しめる空間がここに完成されています。