鶴姫伝説を語る上で欠かせない最大の物的証拠が、大山祇神社の宝物館(紫陽殿・国宝館)に収蔵されている国宝・重要文化財群の中でもひときわ目を引く「紺糸威胴丸(こんいとおどしどうまる)」です。
この胴丸は、胸部が大きく膨らみ、ウエスト(胴回り)が極端に細く絞られた独特のシルエットを持っています。これが「女性特有の体型に合わせて作られた日本唯一の女性用鎧」として喧伝され、鶴姫が着用した武具として広く定着しました。
甲冑研究の専門的な視点からは、この胴丸の製作年代は戦国期(天文年間)ではなく、南北朝時代まで遡ると鑑定されています。当時の胴丸は徒歩戦を想定して作られており、身体に密着させて重量を腰で支えるために胴回りを絞り、息切れを防ぐために胸元にゆとりを持たせる構造が一般的でした。
しかし、中世武具においてこれほど優美で繊細なプロポーションを誇る甲冑は極めて稀有です。大山祇神社を訪れた参拝者がこの鎧を前にしたとき、「ここに命を賭して戦った若き姫君がいた」と直感するだけの圧倒的な存在感を放っている事実は揺らぎません。