ピサの斜塔といえば、ピサ出身の大科学者ガリレオ・ガリレイが頂上から大小2つの球を同時に落とし、「物体の落下速度は重量に比例する」という古代アリストテレスの定説を覆した実験の舞台として教科書にも描かれてきました。
しかし、現代の科学史研究においては、「斜塔での公開実験は行われなかった、あるいは後世の創作である」という見解が有力視されています。ガリレオ自身の膨大な著作や当時の書簡には、ピサの斜塔で実験を行ったという明確な一次記録が残されていません。
このエピソードが世界中に広まった原因は、ガリレオの晩年の弟子であったヴィンチェンツォ・ヴィヴィアーニが著した伝記『ガリレオ・ガリレイの生涯』にあります。師の偉業をドラマチックに演出するために挿入された逸話が、斜塔のアイコニックな姿と結びつき、世界的な伝説として定着しました。
実際には、ガリレオは傾斜をつけた木製のレールに青銅の球を転がす「斜面実験」を緻密に繰り返し、時間を水時計などで精密に計測することで落下の法則(加速度の均一性)を導き出しました。伝説のような派手な公開パフォーマンスではなかったものの、斜塔のふもとで育まれたガリレオの合理的思考が近代科学の扉を開いたことは間違いありません。