物語の終盤、第11章から第12章にかけて展開される「ハートのジャック裁判」は、トランプ社会の不条理さが最高潮に達する名シーンです。
事件の容疑は、イギリスの伝承童謡(マザー・グース)に基づいた「ハートの女王が焼いたタルトをジャック(兵士/召使)が盗んだ」というもの。しかし、法廷では証拠の精査や法的手続きなど一切無視され、裁判長を務めるハートの王と激情型の女王によって、判決が出る前に「刑罰を先に執行せよ」という無茶苦茶な審理が進められます。
証人として召喚された帽子屋や料理人、そして急激に身体が元の大きさに戻り始めたアリスは、この狂気じみた茶番劇に真っ向から異を唱えます。逆上した女王が「あの娘の首をはねよ!」と叫んだ瞬間、アリスは決定的な真実を言い放ちます。
「誰があなたたちの言うことなんか聞くもんですか! あんたたちなんて、ただのトランプの束じゃないの!」
この一言によって、それまで絶対的な恐怖の象徴であった女王やトランプ兵たちは実体のない薄っぺらな紙屑へと還元され、空へと舞い散りながら夢から覚める朝を迎えます。権威主義の虚飾を少女の論理的直観が一撃で粉砕する、文学史上に残る爽快なカタルシスです。