釣り人や西日本の沿岸部では、ヌカカを古くから「スケベ虫(すけべ虫)」という独特の俗称で呼ぶ地域が多く存在します。この不名誉な別名がついた理由は、ヌカカの狡猾な吸血行動にあります。
ヌカカは風に弱く露出した皮膚だけでなく、衣類のわずかな隙間(袖口、襟首、ズボンの裾、下着のゴムの締め付け部分)から内側へと積極的に潜り込みます。そして、外からは見えにくい皮膚の柔らかい部位や衣服の境界線を執拗に刺すため、まるで「服の中に手を入れて悪戯をする好色な存在」のようであることから、現場の漁師や釣り人の間でその名が定着しました。
しかし、そのユーモラスな俗称とは裏腹に、刺された際の症状は蚊とは比較にならないほど凶悪です。吸血時のプロセスと皮膚反応には明確な特徴があります。
ヌカカは蚊のように鋭い口吻を毛細血管に直接差し込むのではなく、微小な顎で皮膚組織を噛み切り、にじみ出た血液を吸う「咀嚼吸血(点状出血)」を行います。その際、血液の凝固を防ぐ物質や麻酔作用を持つ唾液成分を注入するため、刺された瞬間はかすかなチクチク感や痒み程度で、ほとんど気づかないケースが大半です。
本当の苦しみは、吸血されてから半日〜翌日(約12〜24時間後)に訪れます。体内でアレルギー反応(遅発性過敏反応)が本格化すると、刺された部位が赤く硬く盛り上がり(硬結)、燃えるような熱感と「夜も眠れないほどの激しい掻痒感(かゆみ)」が襲ってきます。症状のピークは2〜3日目となり、適切な処置を行わない場合、かゆみと赤みが1週間から長ければ1カ月近く続くことも珍しくありません。