氷を病的に欲する状態の背景には、体内の酸素運搬を担うヘモグロビンが激減する鉄欠乏性貧血が存在します。しかし、「なぜ鉄が足りなくなると、食品ではなく氷なのか」という疑問を抱く人は少なくありません。近年の臨床研究や病態生理学の知見により、この衝動には脳神経と自律神経の明確な連動メカニズムがあることが判明しています。
鉄分が極端に不足すると、脳への酸素供給量が低下し、視床下部にある自律神経・体温調節中枢が正常に機能しなくなります。その結果、口腔内や頭部の深部体温が異常に上昇したような感覚(局所的なのぼせ感・ほてり)が生じ、生体防御反応として「氷で物理的に冷却したい」という強烈な欲求が引き起こされます。
さらに、氷を噛み砕く際の硬い刺激(咀嚼刺激)は、貧血によって不活性化した脳幹網様体を刺激し、低下した覚醒度や集中力を無理やり高める作用を持ちます。「氷をガリガリ食べる心理」の正体は、酸欠状態に陥った脳が自らの覚醒水準を保ち、ストレスを緩和しようと必死に求めている無意識の代償行動なのです。