シリコンハイドロゲルコンタクトが「乾かない」と誤認される最大の要因は、シリコンハイドロゲルの酸素透過率が非常に高いことと「潤い」が混同されて語られてきた歴史にあります。従来のハイドロゲル素材は、水分(水分中の溶存酸素)を介して角膜に酸素を届けていたため、含水率を高めなければ酸素を通せませんでした。しかし高含水レンズは蒸発した水分を補うために装用者の涙を過剰に吸い上げてしまい、これが長時間の装用における深刻な乾燥感の原因となっていました。
対してシリコンハイドロゲルは、水分ではなくシリコーン骨格そのものを直接酸素が透過します。そのため含水率を24%〜38%程度に低く抑えることができ、原理上は「レンズが瞳の涙を奪いにくい」構造を実現しました。これが「乾きにくい素材」と宣伝された科学的根拠です。
では、なぜ現場ではシリコンハイドロゲルが乾く理由を訴える患者が相次ぐのでしょうか。そこには見過ごされがちな2つの構造的欠点が存在します。
第一に、シリコーン本来が持つ強烈な疎水性(水を強く弾く性質)です。メーカー各社はレンズ表面に親水性ポリマーを重合させたりプラズマ処理を施すことで水濡れ性を高める技術改良を重ねていますが、ベース素材そのものは油滴を引き寄せ水を弾こうとします。瞬きの回数が減るデスクワーク環境や液晶画面を凝視する作業下では、レンズ表面を覆う涙液膜がわずか2〜3秒で破断し、レンズの乾燥斑(ドライスポット)が露出して激しい乾燥感をもたらします。
第二の欠点が素材の硬さ(高弾性率=高モジュラス)です。シリコーン重合体は従来のハイドロゲルに比べてコシが強く硬いため、角膜表面やまぶたの裏側(結膜)に対する物理的な機械的刺激が増大します。瞬きのたびにレンズの縁(エッジ)やまぶたの摩擦が生じ、神経が刺激されて「異物感」や「引きつるような乾燥痛」として知覚されるのです。