ネット上の言説において頻繁に見られるのが、「非を認めずに逆ギレして相手を支配するのだから、モラルハラスメント(自己愛性パーソナリティ)と同一ではないか」という混同です。しかし、この2つには動機と構造における決定的な違いが存在します。
典型的なモラハラ加害者の目的は「相手を意図的に支配・コントロールし、優位に立つこと」にあります。相手の弱みを見定めて罪悪感を植え付け、狡猾に搾取する心理的計算が働いています。一方で、ASD当事者の言動には「相手をコントロールして従属させたい」という策略性はありません。彼らにあるのは、「自分の正義・正確さへのこだわり」と「予期せぬ責め苦から身を守る反射的防衛」だけです。
しかし、ここで極めて重要な盲点があります。それは、「加害の意図がないからといって、被害側の苦痛が軽減されるわけではない」という現実です。「悪気がないのだから許してあげて」という周囲の無理解なアドバイスこそが、パートナーを追い詰める元凶となります。
他者に相談しても「外面は真面目で優秀な旦那さんじゃない」「単なる夫婦喧嘩でしょう」と一蹴され、誰にも苦しみを分かってもらえない。この情緒的孤立が積み重なり、不眠、激しい頭痛、パニック発作、重度の抑うつ状態に陥る現象がカサンドラ症候群です。意図的な悪意がないからこそ、被害者は「夫を責める自分が狭量なのではないか」と自己否定のスパイラルに引きずり込まれていきます。