加藤剛が演じた大岡忠相は、従来の「硬派で強面」な奉行像を一変させた。端正な顔立ちから発せられる静かでありながらも重厚な声。そして、罪人をただ糾弾するのではなく、罪を犯さざるを得なかった背景に寄り添う眼差し。彼が確立したこのスタイルこそ、作品の背骨であった。
舞台出身の加藤は、台本のセリフひとつひとつに徹底的な解釈を加え、妥協のない役作りで撮影に臨んでいたという。30年という歳月の中で、歳を重ねるごとに増していった佇まいの深みと品格。それは演者本人の誠実な人柄と美学が、そのまま大岡忠相という歴史上の人物に命を吹き込んだ瞬間でもあった。