黒田氏の官僚人生において、最大の試練となったのが2021年に発覚した総務省幹部に対する接待問題でした。東北新社やNTTによる高額接待が相次いで明るみに出る中、情報通信分野を牛耳っていた旧郵政省系幹部が次々と懲戒処分や辞任に追い込まれる事態に発展しました。
報道各社の取材データおよび総務省の検証委員会報告書によると、黒田氏自身は旧自治省出身であり、通信・放送業界の事業者から直接的な接待を受けていた当事者ではありませんでした。しかし、省内ナンバーワンの事務次官として、自らの監督責任を免れることはできませんでした。
黒田氏は自ら給与の自主返納を申し出るとともに、連日にわたる国会答弁に立ち、深々と頭を下げ続けました。公の場で見せた表情の翳りや厳しい視線には、旧自治系トップとして他系統の不祥事を一身に背負わざるを得ない苦悩が滲み出ていました。
2022年6月の退任理由について、一部ネット上では「接待問題の引責辞任」と短絡的に語られるケースが見られます。しかし実情は異なります。不祥事後の組織改革プログラムに一定の道筋をつけ、後進に道を譲るための約2年半という異例の長期在任を経た「任期満了による円満勇退」が関係者の一致した見方です。