結論から申し上げますと、映画『悪の教典』の続編が公開される可能性は極めてゼロに近いというのが、映画業界関係者および出版関係者の一致した見解です。大ヒット映画であれば、興行収入が20億円を突破した時点で製作委員会が水面下で第2弾の企画を動かすのが通例です。東宝配給で興行収入23.4億円という確固たる実績を残しながら、プロジェクトが完全に停止している背景には、単なる興行面以外の「3つの決定的な理由」が存在します。
第1の理由は、原作小説『悪の教典』に続編が存在しない事実です。本作は貴志祐介が文藝春秋から発表した長編サスペンス小説を完全映画化したものであり、原作本編は蓮実聖司が逮捕され、警察車両の中で不敵な言葉を残す場面で完結しています。映画のオリジナルストーリーとして蓮実の脱獄劇や法廷闘争を描く選択肢もあり得ましたが、貴志祐介が構築した緻密な論理パズルとサイコパスの内面描写を、外部の脚本家が原作なしで再現することは商業的にもクリエイティブ的にも極めてハイリスクでした。
第2の理由は、大手配給会社を取り巻く社会的コンプライアンスの劇的な変化です。2012年の公開当時ですら、高校の文化祭準備で居残る生徒たちを猟銃(散弾銃)で次々と射殺していくショッキングな描写は、映画倫理機構(映倫)による「R15+」指定を受け、世論を二分する激しい議論を巻き起こしました。公開初日のTOHOシネマズ六本木ヒルズで行われた特別上映会では、元AKB48の大島優子が「私はこの映画が嫌いです」と涙ながらにショックを吐露して退席した事件がワイドショーを席巻したことを覚えている方も多いはずです。現在の日本映像界における暴力表現・少年犯罪描写に対する審査基準は、当時と比較にならないほど厳格化しており、高校生虐殺を想起させる題材の続編をメジャー配給で通すことは事実上不可能です。
第3の理由は、主演・伊藤英明をはじめとする制作陣のスケジュールと年齢推移です。『海猿』シリーズで見せた正義の熱血漢から一転、サイコキラー・蓮実聖司(ハスミン)を鬼気迫る怪演で見事に演じきった伊藤英明も、現在は50代を迎えています。蓮実というキャラクターの根底にあった「生徒や同僚PTAを虜にする爽やかで若いエリート教師」というルックスの説得力を保ったまま同一の役柄を演じるには、物理的な歳月が経過しすぎている現実があります。