ネット上のコミュニティやSNSの相談板で最も深刻な混乱を招いているのが、「人間由来の新型コロナ」と「猫固有の猫コロナウイルス」の混同です。この2つは全く異なるウイルス株であり、猫の健康において圧倒的に警戒すべきは後者の猫腸コロナウイルス(FECV)です。
猫腸コロナウイルス(FECV)は、ブリーダー施設や多頭飼育環境において保有率が70〜80%を超える極めて普遍的なウイルスです。排泄物を介した経口感染が主流ですが、多くの猫は無症状、もしくは一時的な下痢を起こす程度で共存しています。問題は、このウイルスが猫の体内で突如として変異を遂げた際に引き起こされる猫伝染性腹膜炎(FIP)です。
かつてFIPは猫コロナウイルス致死率が99%以上と恐れられ、診断即余命宣告を意味する悪夢の病気でした。腸管に留まっていたウイルスが、免疫細胞であるマクロファージに感染する能力を獲得した瞬間、全身の血管に激しい炎症を引き起こします。胸水や腹水が溜まる「ウェットタイプ」、脳神経や腎臓・眼球に肉芽腫を形成する「ドライタイプ」に分かれ、急速に猫の体力を奪っていきます。「コロナウイルス陽性」という検査結果が出た際、それが無害なFECVの抗体なのか、命に関わるFIPへの変異なのかを冷静に見極める鑑別診断が不可欠です。