日本のインターネット上やSNSでは、「アメリカの食べ物は甘すぎるか塩辛すぎるだけで、大味で繊細さがない」という紋切り型の批評が散見されます。しかし、現地の食の現場を取材すると、この言説がいかに一面的な偏見であるかが明白になります。
第一の誤解は、ファストフードチェーンや観光客向けメガポーションダイナーの味付けを、そのまま合衆国全体の食水準と混同している点です。アメリカ合衆国農務省(USDA)の基準や各地のファーム・トゥ・テーブル(農場直結)運動の広がりを見れば明らかなように、カリフォルニアを中心とする西海岸では、オーガニック野菜の素材味を活かした極めて洗練されたカリフォルニア料理が1980年代から花開いています。素材の持つ酸味や苦味、オリーブオイルの質にこだわるガストロノミーの潮流は、今や全米の地方都市にまで波及しています。
第二の盲点は、ポーション(量)に関する認識不足です。現地の大衆食堂で提供される一皿の重量は、日本の標準的な外食メニューの約1.5倍から2倍に達します。これはサービス精神の欠如ではなく、「食べきれなかった分は持ち帰る(To-Go Box / Doggy Bag)」ことが社会的に完全に定着している文化的前提があるためです。初見の旅行者が無理をして一皿をその場で完食しようとすれば、胃腸への過負荷によって「大味で胃もたれする」というネガティブな記憶だけが残ることになります。
SNS上での現地在住者の声を集約すると、「名店のBBQやケイジャンはスパイスの配合が何層にも計算されており、フレンチの名店に匹敵する複雑な味わいがある」「ファストフードの味付けだけを体験してアメリカ料理を語るのは、日本で牛丼チェーンだけを食べて和食を評価するようなもの」という指摘が共通して見られます。画一的なジャンクフードのイメージに惑わされず、地域固有の調理法や食材の背景に目を向ける視点が不可欠です。