萩原健一が残した足跡は、日本の映像史・ロック史における決定的な転換点でした。グループサウンズ「ザ・テンプターズ」のリードボーカルとして熱狂的なアイドル人気を獲得したのち、沢田研二らと結成した伝説のバンド「PYG」を経て、彼は役者の道へと踏み出します。
1972年に放送が開始された『太陽にほえろ!』における「マカロニ刑事」役は、従来の勧善懲悪な刑事像を根底から覆しました。ノーネクタイにパンタロンスーツ、長髪という当時の若者カルチャーをそのまま持ち込み、最後は強盗犯ではなく「立ち小便の最中に通り魔に刺される」という、英雄らしからぬリアルで不条理な殉職シーンを自ら提案。この演出が、日本のテレビドラマに「死のリアル」と「若者の孤独」を刻み込みました。
さらに1974年の『傷だらけの天使』(木暮修役)では、水谷豊演じる亨とのバディ関係を通じて、アウトローたちの切ない青春を活写。オープニングでコンビーフをかじり、牛乳をすするアイコニックな映像スタイルは、後進のクリエイターや俳優たちに決定的な影響を与えました。
訃報が流れた直後の芸能界の反応も異例の大きさでした。
- 水谷豊:「あまりに突然のことで言葉が見つかりません。兄貴、早すぎますよ」と深い喪失感を吐露。
- 岸部一徳:「ザ・タイガースとザ・テンプターズ、そしてPYG。同じ時代を駆け抜けた唯一無二の戦友だった」と回顧。
- 倉本聰(『前略おふくろ様』脚本家):「彼の持っていた天性のリズム感、不器用な優しさは、どんな名優も真似ができない唯一無二のものだった」と哀悼。
遺作となったのは、NHK大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』における大蔵大臣・高橋是清役でした。撮影当時すでに病魔に蝕まれていたにもかかわらず、重厚かつ洒脱な演技で画面を圧倒し、最後まで表現者としての威厳を保ち続けました。