両親の不在を埋めてくれたのは、親戚(育ての親)である叔父・叔母夫婦でした。叔父夫妻にはムロと同年代の実子が2人(ムロから見た従兄弟)いましたが、ムロと姉を分け隔てなく温かく迎え入れ、食事や教育の面倒を見続けました。この親戚の深い愛情がなければ、今日のムロツヨシが存在しなかったことは間違いありません。
しかし、どれほど親戚が温かく接してくれたとしても、幼い子どもの心には「ここは自分の本来の家ではない」「自分たちは居候である」という強烈な遠慮と引け目が常に存在していました。この過酷な心理状態が、後の役者・ムロツヨシの原型を作り上げることになります。
「嫌われたら追い出される」「暗い顔をしていたら周囲に気を使わせてしまう」という恐怖から、彼は意識的に明るく振る舞い、常に親戚家族を笑わせる「道化役」を買って出ました。怒られないため、居場所を失わないためのサバイバル術として磨かれたのが、あの独特のおどけた身振りや絶妙な間合いだったのです。
一方で、5歳年上の姉のエピソードはさらに切実でした。多感な思春期に家庭崩壊を経験した姉は、ムロ以上に精神的な打撃を受け、激しい葛藤と反抗期を経験しました。荒れる姉の姿を間近で見ていたムロは、「自分がこれ以上問題を起こして親戚を困らせるわけにはいかない」と、より一層優等生でお調子者のキャラクターを演じるようになったと語っています。姉はその後、過酷な青春時代を乗り越えて自立し、現在は家庭を築いて穏やかに暮らしていると伝えられています。