「米びつに乾燥唐辛子を入れておけば絶対に虫がわかない」という説は、長年日本の家庭に深く浸透してきました。しかし、害虫防除の生化学的見地から検証すると、この伝承には見過ごせない大きな限界と落とし穴が存在します。
確かに、赤唐辛子に含まれる辛味成分「カプサイシン」には強い揮発性刺激臭があり、害虫を寄せ付けない忌避作用が確認されています。しかし、唐辛子による防虫効果の真相は「外部からの新規侵入をある程度遠ざける」効果にとどまり、殺虫・殺卵作用は一切ありません。つまり、すでに流通段階で米粒の中に産み付けられていたコクゾウムシの卵や、容器を開けた一瞬の隙に潜り込んだメイガの幼虫に対しては、どれだけ大量の唐辛子を投入しても孵化や成長を食い止めることは不可能です。
さらに、市販の米びつ用唐辛子防虫剤であっても、有効成分の拡散範囲には限界があります。5kg〜10kgの米全体にガスを行き渡らせるには容器の完全な気密性が前提条件となります。隙間のある木製米びつやプラスチックケースにただ放り込んでいるだけでは、成分が周囲の大気中へ逃げてしまい、十分な忌避濃度を維持できません。「唐辛子を入れているから安心」という油断こそが、点検を怠らせる最大の誘因となっています。