『風になる』の誕生は、スタジオジブリによる熱烈なラブコールが発端でした。当時の制作陣は、『猫の恩返し』のエンディングにおいて、冒険を終えた観客を重厚な余韻で包み込むのではなく、「日常に戻る背中を軽やかにポンと押してくれるような楽曲」を求めていました。そこで白羽の矢が立ったのが、インディーズ時代から京都を拠点にウクレレ弾き語りで独自の存在感を放っていたつじあやのでした。
関係者の証言や当時のインタビュー資料によると、つじあやのは絵コンテやシナリオを徹底的に読み込み、ハルという不器用な少女の心情に自身を重ね合わせながら楽曲を書き下ろしました。「映画を見終わった人が、映画館を出て空を見上げたときに口ずさみたくなるメロディ」を目指し、装飾を極限まで削ぎ落としたアコースティックなサウンドスケープを構築したのです。
映画公開時、この軽やかなウクレレの音色は、それまでの壮大でシンフォニックなジブリ映画主題歌のイメージを鮮やかに更新しました。劇伴を担当した野見祐二によるオーケストラアレンジ版(アコースティックバージョンとは異なる映画用トラック)と、つじあやの本来のピュアなウクレレ弾き語りスタイルの双方が存在することで、楽曲の持つダイナミズムと親密さが見事なコントラストを生み出しています。