ネットミームとして定着した結果、矢木圭次は「あっさり負けた噛ませ犬」「ただのネタキャラ」と誤解されるケースが少なくありません。しかし、原作を綿密に読み解くと、矢木圭次は極めて有能で冷徹なプロ雀士であったことが分かります。
矢木の実力は、作中の描写からも明らかです。相手の手役を冷静に読み切り、鳴きを使って打点を抑えつつスピードで圧倒する戦術は、当時の裏麻雀の世界において完成された強者の打ち筋でした。アカギと対戦する直前にも、南郷の心理を完全に掌握して自殺寸前の精神状態まで追い詰めています。
では、なぜ矢木はアカギに敗れ去ったのか。その原因は実力不足ではなく、「常識的な麻雀理論の枠内に収まりすぎていたこと」にあります。矢木は「合理性」を信じていたからこそ、命のやり取りの中で常軌を逸した選択を平然と選べるアカギの「狂気的な勝負勘」を読み違えました。凡人ではなく、むしろ「秀才」であったがゆえに、怪物の思考をトレースできずに破滅した点に、福本作品特有の残酷なリアリズムが存在します。
なお、敗北した矢木圭次の「その後」についてですが、裏社会の厳しい掟に従い、代打ちとしての看板を失って表舞台から静かに姿を消しました。命まで奪われる描写はありませんが、川田組の後ろ盾を失った彼が再び裏プロの頂点に返り咲くことはありませんでした。このシビアな引き際もまた、裏社会の乾いた冷酷さを読者に強く印象づけています。