祭りの起点となるのは、日本神話の「国譲り」の舞台としても名高い稲佐の浜だ。夕刻7時、夕闇が浜辺を包み込む頃、潮騒を背景に神迎神事が厳粛に執り行われる。冷たい日本海からの潮風が吹き抜ける中、砂浜に焚かれた篝火が赤々と燃え盛り、神職たちの祝詞が波音に溶けていく。
神々の先導役を務めるのは、海から現れるとされる「龍蛇神(りゅうじゃしん)」だ。神職によって海から迎えられた八百万の神々は、絹垣(きぬがき)に囲まれながら、厳かな沈黙の中で稲佐の浜から出雲大社へと続く「神迎の道」を練り歩く。沿道を埋め尽くした数千人の参拝者は、私語を慎み、頭を垂れて神々の行列を見守る。
街灯の明かりを落とした古道に響くのは、神職の足音と衣擦れの音のみ。神話の時代から続く儀礼が今なお現実の風景として目の前で息づく光景は、観る者を圧倒する。