本作を一躍有名にしたキーワードが、息子がテストの答案に書いた「他者の靴を履く(エンパシー)」という概念だ。同情(シンパシー)が自然に湧き上がる感情であるのに対し、エンパシーは自分と異なる立場や信条を持つ人間の頭の中を想像する「知的な作業」を指す。著者は、この能力が決して心地よい美徳などではなく、激しい精神的負荷を伴う過酷な営みであることを容赦なく描き出す。
自分を差別する相手の靴を履くことができるのか。理不尽な境遇に置かれた友人の靴に、自分の足をねじ込むことは可能なのか。多文化共生という耳あたりの良いスローガンが、現場の過酷な摩擦の前でいかに無力であるかを、親子は身をもって知る。だからこそ、痛みを伴いながら他者を理解しようとする少年の姿が、読む者の心を強く揺さぶるのだ。