第1回WBCを巡っては、20年が経過した現在でもネット掲示板やSNSで様々な都市伝説や歪曲された言説が飛び交っています。その最たるものが、イチロー選手のいわゆる「30年発言」を巡る騒動です。
「韓国に対して向こう30年は日本に勝てないと思わせたい」という言葉が一人歩きし、相手国を挑発・見下したかのように受け止められ、韓国チームがマウンドに国旗を立てるパフォーマンスへと発展したと語られるケースが散見されます。しかし、当時の一次記者会見録を精査すると、発言の真意は全く異なる文脈でした。イチロー選手が語ったのは「ただ勝つだけでなく、戦った相手が『向こう30年は手を出せない』と感じるほど圧倒的なレベルの差を見せつけて勝ちたい」という、自らのプレーに対する極めて高い志と覚悟の表明であり、特定の国を侮蔑する意図は一切含まれていませんでした。
王監督はこの過熱する報道合戦に対しても極めて冷静でした。韓国に敗れた際にも相手の勝利を称え、審判の判定に泣かされた際にも「勝負はグラウンドで決まる。終わったことを言い訳にしない」と選手たちを諭しました。偏狭なナショナリズムに流されることなく、ベースボールという競技そのものへのリスペクトを貫いた王監督の姿勢が、大会全体の品格を保つ防波堤となったのです。