アネモネという植物全体に影を落とす「はかない恋」「見捨てられた」といった陰鬱な花言葉の源流は、古代ギリシャ神話の伝承に刻まれています。なかでも広く知られているのが、美の女神アフロディーテと美少年アドニスの悲恋物語です。
アフロディーテの寵愛を受けた狩人アドニスは、ある日、女神の制止を振り切って森へ狩りに出かけます。そこでアフロディーテの恋人であった軍神アレスの嫉妬を買い、獰猛なイノシシに変身したアレスの手によって致命傷を負わされます。急ぎ駆けつけたアフロディーテの腕の中でアドニスが息絶えたとき、彼の流した紅の血と女神が流した激しい涙が混ざり合い、大地から咲き出でたのがアネモネであると伝えられています。
もうひとつ、アネモネの語源であるギリシャ語の「anemos(風)」にまつわる物語も、この花の悲劇性を裏付けています。西風の神ゼピュロスは、花の女神フローラに仕える可憐な妖精アネモネに恋をします。しかし、激しい嫉妬に狂ったフローラによってアネモネは宮殿を追放され、困り果てたゼピュロスは彼女の苦しみを救うために一輪の花へと姿を変えさせました。神話学者らの研究でも指摘される通り、春の風が吹き始めると花開き、激しい強風に煽られてわずか数日で散ってしまうその生態こそが、「はかなさ」と「裏切り」のメタファーとして定着した根拠となっています。