なぜ世間から「美男子」ともてはやされていた絶頂期に、姿を激変させる道を選んだのか。その動機は、当時の手記や独占特番のインタビューで吐露された「このまま偽りの性別で生き続けるなら、死んだほうがましだと思った」という切迫した叫びに集約されています。
幼少期からスカートを履きたがり、人形遊びを好んでいたという彼女は、愛知県豊橋市で育つなかで周囲との違和感に苛まれ続けました。思春期には男性の身体へと変化していく恐怖から逃れるため、過剰に男らしく振る舞おうとギャル男カルチャーへと身を投じます。皮肉にもその類まれな美貌ゆえに「イケメン」として祭り上げられましたが、内面の自己認識(性自認)は常に女性でした。
芸能界で大ブレイクした2015年前後、彼女は極限の精神状態に追い詰められていました。テレビカメラの前では「オネエタレント」「ユニセックスな美男子」としての役割を演じ、派手なセレブ生活を装うために多額の借金を抱えるなど、公私のギャップは崩壊寸前まで膨らんでいました。当時の体調不良による入院は、心身が発した最終警告でした。
覚悟を決めた彼女は、2017年5月に母を伴ってタイの病院へ渡航。およそ6時間に及ぶ大手術(性別適合手術)を受け、女性の身体へと生まれ変わりました。術後の激痛と孤独感のなかで母親の手を握りしめ、涙を流したエピソードは広く知られています。同年7月には日本の家庭裁判所で戸籍上の性別変更が認められ、戸籍名は「元輝(げんき)」から「佐奈(さな)」へと改められました。「生まれ変わった本当の自分として、第二の人生を歩み始める」という宣言は、多くの当事者に計り知れない勇気を与えました。