『ToHeart』を語る上で欠かせないのが、メイドロボット「マルチ(HMX-12)」の存在です。家事手伝い用ロボットとして主人公の通う高校で試用テストを受ける彼女は、ドジで頼りないながらも懸命に主人公へ尽くす姿が描かれます。
当時、パソコン通信や初期のインターネット掲示板(2ちゃんねる等の前身コミュニティ)では、マルチのストーリー終盤における切ない展開が爆発的な反響を呼びました。彼女のルートにおけるHシーンは、ロボットであるがゆえの倫理的葛藤や「機械である自分が人間と愛を交わすことの意味」という重厚なテーマを内包しており、単なるエロティシズムを超えた深い感動を生み出したのです。
社会心理学的な観点から分析すると、マルチのキャラクター像は、当時の若者層が抱いていた「他者とのコミュニケーション不全」に対する癒やしとして機能していました。無条件の肯定と献身を提供する存在でありながら、同時に儚さと哀愁を帯びているという構造が、日本における「萌え」という概念の成立を決定づけた要因といえます。