東京・清澄白河の静かな住宅街に佇む「みかわ是山居」。そのカウンターで長年油と向き合い続ける早乙女哲哉氏は、天婦羅を「水分との格闘」と表現する。魚介の水分をどこまで抜き、どの瞬間に余熱へ切り替えるか。彼が提唱する揚げの技術は、従来のアナログな感覚論を脱し、油温200度前後における脱水現象の精密な計算に基づいている。穴子の皮目を香ばしく揚げ切り、身の水分量を絶妙に残す職人技は、まさに最高峰の仕事だ。
一方で、銀座で革新を起こし続ける「てんぷら近藤」の近藤文夫氏は、野菜を天婦羅の主役に押し上げた先駆者として知られる。分厚く切ったサツマイモを30分以上かけてじっくり揚げる技法や、細切りのゴボウを芸術的な形に仕立てる極秘レシピの存在は、従来の常識を根底から覆した。素材ごとに小麦粉の冷やし加減や衣の濃度、ごま油のブレンド比率を変える徹底したこだわりが、江戸前料理の新たな可能性を切り拓いている。