『かえり船』の歌詞が持つ決定的な力は、削ぎ落とされた言葉の中に広がる情景のリアリティにあります。冒頭の「波の背の背に揺られて揺れて」というフレーズは、荒波を越えて日本本土を目指す引き揚げ船の情景そのものを想起させます。
当時、旧満州(現・中国東北部)や南方戦線、樺太など外地に残された軍人・民間人は約660万人に達していました。着の身着のままで舞鶴港や博多港、佐世保港へたどり着いた引き揚げ者たちにとって、船上で見つめた水平線と、帰国後に待ち受けていた変わり果てた祖国の光景は生涯消えない記憶となりました。
歌詞中にある「生きて帰った」「山が見える」という素朴な表現は、単なる望郷の念にとどまらず、生と死の境界線をくぐり抜けてきた者だけが実感できる凄絶な安堵感を内包しています。聴く者それぞれが自身の体験や失った家族の面影を重ね合わせることができたからこそ、この歌詞は時代を超えた普遍性を獲得しました。