館内へ足を踏み入れると、そこは一本の通りをそのまま建物内に閉じ込めたかのような木造空間が広がる。昭和11年に完成した「斉月楼」と大広間は、国の登録有形文化財に指定されている貴重な遺産だ。当時の館主が全国から選りすぐりの宮大工を呼び寄せ、一切の妥協を許さずに作り上げた。
驚くべきは、客室ごとに異なる天井の細工や窓枠のデザインである。富士山をかたどった欄間、水車を模した障子格子、一本の杉の巨木をそのまま使った床柱など、遊び心と高度な技術が随所に散りばめられている。釘を極力使わずに組み上げられた木造四階建ての構造は、地震の揺れを逃す伝統的な免震機構さえ備えており、先人の知恵の深さに圧倒される。