ハライチの漫才を語る上で欠かせないのが、自他共に認める革命的フォーマット「ハライチノリボケ漫才」です。澤部が提示したテーマに対し、岩井が連想ゲームのように突拍子もないフレーズを放ち、澤部が「〇〇!」と一度ノリながらも激しくツッコミを入れる。この一連の流れるような応酬は、漫才界における構造的イノベーションでした。
従来の漫才が「ボケが嘘をつき、ツッコミがそれを正す」という二項対立で成り立っていたのに対し、ノリボケは「ツッコミが一度ボケの世界に同調して演じ切る」という共犯関係を取り入れた点に新規性がありました。このパッケージの強烈さによって、彼らは若手屈指のスピードで売れっ子の階段を駆け上がることになります。
しかし、完璧すぎるシステムの発明は、皮肉にも彼ら自身を縛る呪縛へと変貌していきました。M-1グランプリという4分間の極限勝負において、フォーマットが広く認知されてしまった漫才師は極めて不利な立場に立たされます。観客も審査員も「次に何が起きるか」という構造をすでに理解しているため、初見時の爆発的な笑いを超えることが構造的に難しくなるからです。
この時期のハライチM-1ネタは、「ペットを飼いたい」「ラーメン屋」「誘拐」とテーマを変えつつも、観る側の「あのノリボケが見たい」という期待と「予想通りの展開では爆発しない」という賞レース特有の冷徹な現実の間で揺れ動き続けました。