日本人にとってカエルの鳴き声といえば「ケロケロ」「ゲコゲコ」が不動のオノマトペですが、英語圏でこの擬音を使っても現地の人にはまったく伝わりません。英語におけるカエルの鳴き声表現は、主に「ribbit」(リビット)と「croak」(クローク)の2種類が代表格です。
ここで極めて興味深いのが、「なぜ英語圏ではカエルの声がribbitと表現されるようになったのか」という歴史的背景です。認知言語学やメディア史の研究資料によると、この擬音の普及にはハリウッド映画産業が決定的な役割を果たしました。
世界中に生息する無数のカエルのうち、「ribbit」と明確に鳴くのは北米西海岸(特にカリフォルニア州一帯)に分布するパシフィック・ツリーフロッグ(Pacific tree frog / ニシハイイロアマガエル)というごく限られた種だけです。20世紀中盤、ロサンゼルス近郊に拠点を置いていたハリウッドの映画スタジオは、夜の湿地帯や郊外のシーンを撮影する際、スタジオ周辺で採取したこのカエルの鳴き声を環境音として繰り返し音響ライブラリに採用しました。
ワーナー・ブラザースのアニメーションや名作映画を通じて世界中に発信された結果、「カエルの声=ribbit」という認識がアメリカ全土、ひいては英語圏全体へ急速に浸透していったのです。現在でも絵本やコミック、子ども向けの番組では、カエルの基本フレーズとして「Ribbit! Ribbit!」が多用されます。
一方、より一般的かつ客観的な動詞・名詞として用いられるのが「croak」です。こちらは喉の奥から絞り出すような低くしゃがれた濁音を表し、ウシガエルや大型のヒキガエルが低音で鳴く様子にぴったり合致します。また、「croak」はスラングとして「死ぬ」「くたばる」という意味を持つため、文脈に応じた使い分けが求められます。