エドワード・ホッパーはなぜ孤独を描くのか?『ナイトホークス』に隠された真相

エドワード・ホッパーはなぜ孤独を描くのか?『ナイトホークス』に隠された真相

エドワード・ホッパーはなぜ孤独を描くのか?『ナイトホークス』に隠された真相の基礎知識と応用に迫る! 専門的な視点でご紹介しています。

エドワード・ホッパーの代名詞とも言える傑作が、1942年に完成した『ナイトホークス(夜更けの人々)』です。エドワード・ホッパー ナイトホークス 解説において避けて通れないのは、この作品が描かれた歴史的文脈です。制作されたのは1941年12月の真珠湾攻撃の直後。街全体が灯火管制に怯え、全米が第二次世界大戦の戦火への恐怖と猜疑心に覆われていたマンハッタンでした。

暗闇に沈むグリニッジ・ヴィレッジの角地に、眩いアセチレン電灯で照らし出されたガラス張りの深夜ダイナー。店内にいるのは、カウンターの内側に立つ白衣の給仕と、煙草を指に挟む男、その隣に座る派手な赤いドレスの女性、そして背中を向けた単身の男の計4人のみです。

特筆すべきは、巨大な曲面ガラスで街路と隔てられた店内への入り口が、画面上のどこにも描かれていない点です。外から見つめる私たちは、まるで水槽の中に閉じ込められた夜行性の魚たち(Night Hawks=夜光鳥、夜遊び人)を覗き見ているかのような強い voyeurism(覗き見趣味)を強いられます。

寄り添っているように見える男女の手元を拡大すると、触れ合っているようで触れ合っていません。会話が成立している気配はなく、食器の触れ合う冷たい金属音と照明のハム音だけが響いているかのような完全な無音。社会学者たちが指摘するように、『ナイトホークス』は20世紀都市文明がもたらした「無縁社会」の原型を、恐怖を煽ることなくただ静まり返ったリアリズムで定着させた奇跡的な1枚です。

林 結菜
著者

林 結菜

エンタメ・カルチャー業界の深掘り取材を得意とし、現場のリアルな声をお伝えします。