口から血が出た際、真っ先に特定すべきは「その血が空気の通り道から来たのか、それとも食べ物の通り道から来たのか」という点です。呼吸器系(気管・気管支・肺)から咳とともに排出されるものを「喀血(Hemoptysis)」、消化器系(食道・胃・十二指腸)から嘔吐動作とともに排出されるものを「吐血(Hematemesis)」と呼びます。
両者の識別において、臨床現場で最も重視される観察ポイントは以下の3要素です。
第1に「色と外観」です。喀血は肺胞や気管支の毛細血管・気管支動脈から直接漏れ出た血液であり、酸素を豊富に含む動脈血が中心となるため、鮮やかな赤色(鮮紅色)を呈します。さらに、肺の中で呼吸運動による空気と激しく混ざり合うため、微細な泡(泡沫)を含んでいる点が最大の特徴です。一方の吐血は、胃酸に晒されることで血液中のヘモグロビンが酸化され「ヘマチン」へと変質するため、暗赤色から黒褐色、いわゆる「コーヒー残渣(かす)様」の見た目へと劇的に変化します。ただし、食道静脈瘤の破裂など胃酸と接触する前に一気に噴出した場合は、吐血であっても鮮紅色のまま大量に出るケースがあるため警戒を怠れません。
第2に「酸性度(pH)」の違いが挙げられます。救急外来ではリトマス試験紙やpH試験紙を用いて瞬時に判定することがあります。喀血は気道分泌物と同様にアルカリ性(あるいは中性)を示しますが、吐血は強酸性の胃液(塩酸)と混ざり合うため強い酸性を示します。
第3に「混入物と排出時の動作」です。喀血は「強い咳き込み」や喉のムズムズ感、胸の圧迫感に続いて気道から押し出され、喀痰が混じることが大半です。対して吐血は、前駆症状として強い吐き気や心窩部(みぞおち)の痛み、胃部の膨満感を伴い、「嘔吐反射」によって胃の内容物(消化途中の食物残渣)とともに胃から逆流します。
医療従事者を目指す看護学生の間では、国家試験対策の定番語呂合わせとして「かっけつ・アルカリ・あわ・あか(喀血はアルカリ性、泡あり、赤色)」と記憶されています。このフレーズは、一般の家庭で緊急事態に遭遇した際にも、出血の性質を瞬時に見分ける強力な知識の武器となります。