そもそも、なぜ私たちは人前に立つだけで心臓が激しく波打ち、声や手足が勝手に震え出してしまうのでしょうか。臨床心理士および心療内科医への取材によると、この現象の根底には人類が進化の過程で獲得した防衛本能「闘争・逃走反応(Fight or Flight)」が存在します。大勢の他者からじっと見つめられる状況を、脳の扁桃体は無意識のうちに「捕食者や敵対勢力に囲まれた生命の危機」と誤認します。その結果、副腎からアドレナリンやノルアドレナリンが血中に大量放出され、筋肉を硬直させ、心拍数を跳ね上げるのです。
心理学的な側面から見ると、最大の引き金となっているのが「スポットライト効果」と「評価懸念」です。スポットライト効果とは、自分が考えている以上に「周囲から一挙手一投足を観察され、品定めされている」と思い込んでしまう認知の歪みを指します。さらに「絶対に失敗して恥をかいてはならない」「優秀に見られなければならない」という強い自己防衛バイアスが加わることで、人前で緊張する心理的理由が完成します。
声が震える直接の引き金は、交感神経の過緊張によって喉仏周辺の筋肉(声帯筋や喉頭筋)が過剰に収縮し、呼吸が浅くなって呼気の圧力が乱れることにあります。また、手の震えと動悸を抑える対処法を知らないまま「震えを止めよう」と念じると、かえって意識が身体症状に集中し、震えが増幅する悪循環に陥ります。緊張を克服する第一歩は、「震えや動悸は危険から身を守るための正常な身体反応である」と客観的に受け止めることです。