救急搬送や整形外科外来の現場で医師が最も頻繁に耳にするのが、「歩けたので骨折しているとは思わなかった」という患者の証言です。しかし、この認識こそが治療の遅れを招く最大の落とし穴といえます。
人間の足の力学構造において、直立歩行時に体重の約60%〜70%は踵(踵骨)にかかり、残りの大半は親指の付け根(母指球)で支持されます。足の小指(第5趾末節骨・中節骨・基節骨)が担う荷重割合は全体のわずか数パーセントに過ぎません。そのため、小指の骨が完全に折れていたり亀裂が入っていたりしても、踵の外側や内側に荷重を逃がして足をひきずれば「自力歩行が可能」なのです。
打撲と骨折(ひび)を鑑別する判断材料として、以下の3つの医学的徴候に注目してください。
第一に「限局性圧痛(骨のピンポイントの痛み)」です。打撲の場合は衝突した組織全体がぼんやりと痛むのに対し、骨折やひびの場合は、骨の長軸上にある損傷部位を指先でピンポイントに押した瞬間に、飛び上がるような鋭い激痛が走ります。
第二に「軸圧痛(タッピング痛)」の有無です。小指の先端から足首の方向に向かって、骨の軸に沿って真っ直ぐ軽く押し込む(あるいは指先をトントンと叩く)と、骨折部へダイレクトに振動と圧力が伝わり、耐え難い痛みが生じます。単なる打撲であれば、軸方向に圧力を加えてもこの特有の響く痛みは現れません。
第三に「皮下出血斑の広がり」です。骨折を起こすと骨膜および骨髄内の血管が破綻するため、受傷後数時間から翌朝にかけて、小指だけでなく足の甲や足裏にまで赤紫色から黒紫色の内出血が帯状に広がっていきます。