救命救急センターへ搬送されてくる患者の訴えにおいて、たこつぼ型心筋症の初期症状は極めて急性心筋梗塞と紛らわしい様相を呈します。「胸を万力で締め付けられるような激痛」「胸骨の奥が焼け付くような圧迫感」「冷や汗を伴う息切れ」「突然の失神」など、患者が自力で急性心筋梗塞と見分けることは事実上不可能です。
医療従事者が最初に行う検査でも、鑑別の難しさは際立っています。たこつぼ型心筋症の診断基準と心電図所見では、急性心筋梗塞の典型所見とされる「ST部分の上昇」が約7〜8割の症例で確認され、発症から数日後には深く尖った「巨大陰性T波」や「QT時間の著しい延長」が出現します。心筋細胞の逸脱酵素であるトロポニンも陽性反応を示すため、初期診療の段階では循環器専門医であっても心筋梗塞の確定診断と同一の臨戦態勢を取らざるを得ません。
両者を分かつ心筋梗塞との決定的な違いは、緊急心臓カテーテル検査によって冠動脈を造影した瞬間に判明します。心筋梗塞では冠動脈内にアテローム(動脈硬化巣)の破綻と血栓による完全閉塞や高度狭窄が明瞭に描出されますが、本症では心筋を栄養する太い冠動脈に全く閉塞が見られません。造影剤を左心室内に注入して収縮状態を撮影した際、特徴的な蛸壺形状が画面に浮かび上がった瞬間に、初めて確定診断へと至る構造になっています。