「腕を上げる」の反対語として定着しているのが、「腕が落ちる」です。ここで注目すべきは、対義表現が「腕を下げる」という他動詞形ではなく、自動詞の「腕が落ちる」という形式をとる点にあります。
自らの意志で意図的に技術を低下させる人間はいません。技術の減退とは、練習不足や長期のブランク、あるいは身体機能の衰えによって「本人の意志とは無関係に落下していく現象」です。だからこそ、重力に従って物が下方へ落ちていく物理現象になぞらえて「腕が落ちる」と表現されるのです。この対比構造は、日本語における身体メタファーの精緻さを象徴しています。
類義の対義語としては、「腕が鈍(にぶ)る」「勘が狂う」「焼きが回る」などが挙げられます。特に「腕が鈍る」は刃物の切れ味が悪くなる様子に由来しており、手入れ(練習)を怠ったことによる一時的な切れ味の喪失を示唆します。一方、「腕が落ちる」は一段階下のスキルレベルへと明確に後退したという、やや恒久的なニュアンスを含みます。