「六法全書には6つの法律しか載っていない」という説は、出版界および法曹界における最も有名な誤解の一つです。結論から言えば、六法全書には1,000件を超える法令が収録されています。では、なぜ「六法」という冠が冠されているのでしょうか。その謎を解く鍵は、近代日本の法典整備の歴史にあります。
そもそも「六法」という概念は、19世紀初頭にナポレオン1世が制定させたフランスの主要法典群(憲法、民法、商法、刑法、民事訴訟法、治罪法[後の刑事訴訟法])に由来します。明治維新後の日本は、不平等条約の改正と中央集権国家の確立を急務とし、西欧近代法を精力的に継受しました。この過程で整備された日本の骨格をなす6つの基本法典を総称して「六法」と呼ぶ習わしが定着したのです。
現在一般に「基本六法一覧」として定義される法典は、以下の通りです。
- 日本国憲法:国家の最高法規であり、基本的人権の保障と統治機構の骨格を規定
- 民法:私人間の財産関係や家族関係など、市民社会の生活全般を規律する一般法
- 刑法:いかなる行為が犯罪となり、いかなる刑罰が科されるかを定める実体法
- 商法(会社法含む):商人や企業の営利活動、取引の安全を規律する特別法
- 民事訴訟法:私権の紛争を裁判手続きによって強制的に解決するための手続法
- 刑事訴訟法:国家が犯罪を捜査・公判し、刑罰権を適正に実現するための手続法
「六法全書」の「全書」とは、これら6大基本法典を軸としつつ、それに連なる派生法令、特別法、政令、条約に至るまでを「余すところなく集大成した書物」を意味します。つまり、6つの法律だけを抜き出した抄本ではなく、「六法体系を主軸とする日本の主要法令の集大成」というのが、語源に照らした正確な定義です。