長期間にわたり適切な抗うつ薬治療を行っても十分な改善が見られない場合、単なる「性格の問題」として片付けることは極めて危険です。そこには、診断そのものの見直しを迫る医療的要因や、未発見の神経発達症の存在が隠されているケースが少なくありません。
近年の精神医療研究において強く警鐘が鳴らされているのが、双極性障害誤診の可能性です。うつ状態の強さだけで診断が下され、過去の軽躁状態(睡眠時間が短くても異常に活動的だった時期、浪費や多弁など)が見落とされた結果、単極性のうつ病として抗うつ薬(SSRIやSNRIなど)が長期投与され続ける事例が散見されます。双極性障害に抗うつ薬を単独投与すると、気分循環が急速化したり(ラピッドサイクラー)、イライラや焦燥感が激化する「躁うつ混合状態」を引き起こし、難治化の一途を辿るリスクが生じます。
もう一つの重大な盲点が、発達障害とうつ病の併発です。成人期になって初めて判明する軽度の自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)を抱える人々は、幼少期から職場の暗黙のルールやマルチタスクに適応できず、慢性的な過緊張と自己否定に晒され続けています。この持続的ストレスから二次障害としてうつ病を発症している場合、根底にある発達特性に対する理解と環境調整を行わない限り、抗うつ薬だけで根本的な寛解に至ることは構造的に不可能です。
いわゆる難治性うつ病の真相を探ると、生物学的な薬物抵抗性だけでなく、こうした併存症の見落としや、家庭・職場における慢性的ストレス因子(ハラスメントやモラルハラスメントなど)の残存が、うつ病が治らない理由の基底を成していることが分かります。