やがて二人の抗争は「名勝負数え唄」と称され、日本中を熱狂の渦に巻き込んでいく。ハイスパートレスリングの応酬、意地と意地がぶつかり合う掟破りの逆サソリ。だが、その華やかなスポットライトの裏には、当事者しか知り得ない極限の心理戦と肉体への過酷な代償が存在していた。
近年、二人が振り返る独占証言の中で明かされたのは、リング上での「暗黙の阿吽の呼吸」など微塵もなかったという冷徹な事実だ。「藤波の首を本気で折るつもりでリングに上がっていた」と語る長州力に対し、藤波辰爾もまた「長州の突進を止められるのは自分しかいないという恐怖とプライドの狭間にいた」と述懐する。互いに一切の妥協を許さず、技の一撃一撃に憎悪と敬意を同時に込めていたからこそ、あの奇跡的な緊張感が維持されていたのだ。