舞台関係者の間でいまも語り継がれる聖地がある。彩の国さいたま芸術劇場だ。赤レンガの壁に囲まれた稽古場には、常に張り詰めた空気が漂っていた。巨匠・蜷川幸雄が放つ叱咤は、時に容赦なく若手俳優たちの自尊心を打ち砕いた。妥協を許さない演出家のアプローチは、表現の極限状態を求めてやまなかったからだ。
その凄惨とも言える現場に真正面から飛び込んだのが、当時十代後半から二十代前半だった小栗旬だった。テレビドラマで人気を博し、華やかな脚光を浴びていた若者にとって、劇場の暗闇は甘えを一切許さない苛酷な戦場だった。言葉を発する度に突きつけられる表現者としての本質。稽古場に通う足が重くなるほどの圧迫感の中で、彼は己の演技を根底から解体し、再構築することを余儀なくされた。