水資源を巡る言説には、長年刷り込まれた典型的な「3大誤解」が存在します。報道のセンセーショナルな見出しに踊らされないためにも、以下の盲点を正確に把握しておく必要があります。
誤解1:矢木沢ダムの水位がゼロに近づけば、首都圏全域で断水が起きる
これは最大の誤解です。東京、埼玉、千葉などの首都圏上水道は、利根川水系だけでなく、荒川水系や多摩川水系(小河内ダムなど)、さらには霞ヶ浦など複数の水系から受水しています。東京都水道局の受水比率を見ても、利根川・荒川水系が約8割を占めますが、水系間で相互に水を融通する送水管ネットワーク(連絡管)が極めて高度に張り巡らされています。矢木沢ダム単体の水位が急低下したからといって、翌日から都心の水道管が空っぽになるような構造にはなっていません。
誤解2:「取水制限10%」が発表されたら、家庭の水道も10%減らされる
ニュースで矢木沢ダム取水制限の文字が躍ると、自宅の水道が出なくなるのではないかとパニックになる人がいます。しかし、利根川水系渇水対策連絡協議会が発令する「10%取水制限」とは、河川から取水施設へ引き込む原水の量を最大受水量から10%抑制するという「河川管理者と水道事業体・農業用水利組合の間」の協定です。各自治体の水道局は、浄水場の調整池や配水池に水をプールしているため、10%程度の取水制限であれば、減圧給水や市民の自発的節水協力によって吸収され、蛇口をひねっても普段通りに水が出ます。
誤解3:ダムの底が見えるのは近年の異常気象だけが原因である
ダム湖底の遺構が露出することは、渇水年でなくとも冬から春の定期運用サイクルにおいて局所的に発生します。点検作業や土砂フラッシングのための意図的な水位低下(制限水位の引き下げ)も存在し、「底が見えた=人類の危機」という短絡的な受け止め方は、ダム工学の実態を見誤る原因となります。