情報の非対称性を論じる上で避けて通れないのが、「逆選択(アドバース・セレクション)」と「モラルハザード」という2大概念です。この2つは混同されがちですが、発生するタイミングが「契約の前」か「契約の後」かという決定的な違いが存在します。
逆選択とは、取引や契約が交わされる「前」に生じる現象です。前述の中古車市場のように、相手の性質や品質が見えないために、結果として都合の悪い相手や粗悪な製品ばかりを選ばざるを得なくなる状態を指します。たとえば生命保険や医療保険において、健康状態に不安を抱える人ほど高額な保険に入りたがり、極めて健康な人は保険料を割高に感じて加入を見送る現象が典型例です。
一方でモラルハザードは、契約が交わされた「後」に当事者の行動が変化し、倫理観の欠如や気の緩みが生じる現象です。手厚い自動車保険に入ったことで「事故を起こしても保険金が出るから」と運転が荒くなったり、全額補償の火災保険に加入した安心感から火の不始末に対する注意が散漫になったりする事態がこれに該当します。
さらに組織運営やビジネスにおいて頻発するのが「プリンシパル=エージェント関係」です。仕事を依頼する側(プリンシパル:株主や経営者、顧客)と、業務を任される代理人(エージェント:雇われ社長、従業員、受託業者)の間で利害が一致せず、エージェントが依頼人の見えないところで手抜きをしたり私利私欲に走ったりする問題であり、これもモラルハザードの一種といえます。