出産時に会陰切開を行う理由はなぜなのか、疑問と不安を抱く妊婦は少なくありません。医療現場で切開が選択される最大の目的は、「母体組織の無秩序な破壊防止」と「胎児の安全確保」の2点に集約されます。胎児の頭が骨盤底を通過する際、出口である会陰の皮膚や筋肉が十分に伸びきらないと、過度な緊張によって組織が不規則に裂ける恐れがあります。
ここで知っておくべきは、会陰裂傷との違いです。医療用ハサミで意図的に切開を入れる会陰切開に対し、会陰裂傷は分べんの圧力で皮膚が自然に裂けてしまう現象を指します。裂傷の深さは第1度から第4度までに分類され、肛門括約筋や直腸粘膜にまで達する第3度・第4度の重度裂傷に及ぶと、産後の便失禁や長期の排便障害といった後遺症リスクが跳ね上がります。あらかじめ統制された直線的な切開を入れておくことで、傷口が肛門方向へ無秩序に伸びるのを食い止め、縫合の精度と治癒スピードを高める狙いがあります。
日本国内の分べん現場における初産と経産婦における会陰切開の割合を見ると、組織が硬く伸びにくい初産婦では約60%〜70%に実施されているのに対し、一度出産を経て産道が柔らかくなっている経産婦では約20%〜30%程度に留まります。近年は「全員に一律で行う」ルーチン切開から、赤ちゃんの心拍低下(胎児機能不全)や急速遂行が必要なケース、重度裂傷が予測される場合に限定する選択的切開へとシフトが進んでいます。