ネット上やビジネス書でしばしば見かける最大の疑問が「この言葉は一体誰が作ったのか」という点です。結論から述べると、特定の作者は存在せず、作者不詳(詠み人知らず)の伝承歌が真相です。江戸時代の俳諧や農民の間で語り継がれた俚諺(りげん:世間一般に言いならわされたことわざ)が起源とされ、原型としては「実るほど頭の下がる稲穂かな」など複数のバリエーションが存在していました。
では、なぜこれほどまでに「松下幸之助の言葉」として定着しているのでしょうか。その契機となったのは、パナソニック(旧松下電器産業)の創業者である松下幸之助氏が、自著『道をひらく』やPHP研究所の機関誌、さらには社員向けの講話においてこの句を繰り返し引用し、自らの「生涯の座右の銘」として公言した事実にあります。
松下氏の公式アーカイブ資料や当時の証言録によると、松下氏は事業が急拡大した昭和の高度経済成長期、社員や幹部に対して次のように戒め続けました。
「事業がうまくいき、世間から賞賛されるようになると、人間はどうしても知らず知らずのうちに傲慢になる。しかし、運や周囲の協力があってこその成功や。実れば実るほど、頭を下げなあかん」
一代で世界的企業を築き上げたトップ自らが、誰よりも深く他者に頭を下げ続ける姿勢を示したことで、この句は「リーダーシップと謙虚さの象徴」として日本経済界全体へ波及していったのです。