インターネット上のQ&AサイトやSNSでは、「パテラと診断されたが安静にしていたら自然に治った」「散歩を休ませていたら歩き方が戻った」という体験談が散見されます。しかし、獣医学的に見て犬のパテラ自然治癒の真相は明白であり、「一度緩んだ靭帯や浅い骨の溝が、投薬や安静によって元の正常な構造へ戻ることは絶対にない」というのが現代獣医学の確定した結論です。
ネット上で「治った」と語られる現象の多くは、脱臼した関節周囲の組織が慢性的な炎症の末に繊維化して硬くなり、たまたま骨が外れにくくなったか、あるいは外れた状態のまま痛覚麻痺を起こして違和感に慣れてしまった状態を指しています。関節軟骨は血流が極めて乏しい組織であり、脱臼の摩擦によって削れた軟骨細胞が自力で再生することはありません。むしろ表面化する症状が消えた水面下で、不可逆的な変形性関節症や骨棘(こつきょく:骨のトゲ)の形成が着実に進行していきます。
また、昨今人気を集めているパテラ用犬サプリメントの評判についても、冷静な理解が欠かせません。グルコサミン、コンドロイチン、緑イ貝抽出物、非変性II型コラーゲン(UC-II)などを配合した関節サプリメントは、関節液の粘弾性を保ち軟骨の摩擦を緩和する「栄養補助」としては一定の有用性が臨床的にも支持されています。しかし、外れた骨を機械的に溝へ押し戻す効能はありません。サプリメントを与えている安心感から床の滑り対策を怠ったり、獣医師の経過観察を中断したりすることは本末転倒と言えます。