「爆弾低気圧」という言葉は、決してマスメディアが作った扇情的な造語ではありません。その起源は、1980年に気象学者のフレデリック・サンダース(Frederick Sanders)とジョン・ジャカム(John R. Gyakum)両博士が米国気象学会の学術論文で提唱した「Meteorological "bomb"(気象学的な爆弾)」に遡ります。1978年9月、北大西洋上で猛烈に急発達した低気圧が豪華客船クイーンエリザベス2世号を直撃して損傷させ、トロール船を沈没させた大惨事を契機に、当時の数値予報モデルでは予測できなかった異常現象として包括的に定義されました。
学術的な定義における急速発達の基準は、「中心気圧が24時間で 24hPa × sin(φ) / sin(60°) 以上低下する温帯低気圧(φは緯度)」と厳格に定められています。基準となる緯度60度では24時間で24hPaの低下ですが、日本海や本州付近(北緯約35〜40度)に当てはめると、24時間で約16〜18hPa以上の気圧低下で該当します。なお、気象庁の公式見解としては、不用意な恐怖心を煽るリスクを避けるため「爆弾低気圧」という俗称の報道使用を控え、公式発表や気象情報では「急速に発達する低気圧」という防災気象用語で統一しています。
発生理由の核心にあるのは、「性質の全く異なる2つの空気の激突」です。日本付近は、シベリア方面から吹き出す氷点下の極めて冷たい寒気と、南方の黒潮流域から立ち上る温暖湿潤な空気がちょうどせめぎ合う世界屈指の多発地帯となっています。上空数千メートルを流れる偏西風(ジェット気流)が大きく蛇行し、強烈な寒冷渦(上空の寒気トラフ)が日本海へ滑り込むと、下層の暖かく湿った空気との間で極端な温度勾配が生じます。この温度差をエネルギー源として急激な上昇気流が生まれ、まるで爆発するかのような速度で渦を巻きながら気圧を急降下させるのです。