一般社会において、「あの人は唯我独尊タイプだから付き合いにくい」「唯我独尊の振る舞いで孤立した」というように、他者を見下す尊大な態度を指して用いられるケースが後を絶ちません。しかし、この解釈は明らかな天上天下唯我独尊の誤解です。
この成句の原点は、約2500年前に仏教の開祖である釈迦(ゴータマ・シッダールタ)が、現在のネパール南部にあたるルンビニの花園で誕生した際に放ったとされる「誕生偈(たんじょうげ)」にあります。伝承によると、釈迦は母・摩耶夫人の右脇から生まれるやいなや四方に七歩ずつ歩み、右手で天を、左手で地を指差してこの言葉を唱えたと伝えられています。
ここで極めて重要なのは、「我」という一文字の解釈です。世俗的には「私(釈迦自身)だけが偉い」と読まれがちですが、仏教学における本来の教義では、この「我」は釈迦個人のエゴを指すものではありません。人間という生命体として生を受けた「私たち一人ひとり」を指しているのです。
つまり、「天の上にも天の下(地上)にも、広大な全宇宙のなかで、自分という存在は唯一無二であり、何ものにも代えがたい尊厳を持っている」という宣言です。他者と能力や財力を比較して「自分の方が上だ」と優越感に浸るのではなく、「他と比較すること自体が無意味なほど、命そのものが絶対的に尊い」という、生命の無条件肯定こそが天上天下唯我独尊の本当の意味なのです。