調味料の配合以上に仕上がりを左右するのが、魚のサクに対する「仕込み」です。ネット上の簡易レシピでは「切ってタレに和えるだけ」と書かれがちですが、これこそが生臭さと水っぽさを生む最大の原因となっています。
スーパーのパックに並ぶ刺身用のサクは、加工されてから時間が経過するにつれて、細胞膜が壊れて「ドリップ」と呼ばれる水分が外に滲み出しています。このドリップには、魚特有の生臭み成分であるトリメチルアミンや、酸化した脂質が大量に含まれています。ドリップを拭き取らずにそのまま調味料を絡めてしまうと、調味料の塩分によってさらに魚の水分が引き出され、タレが薄まるだけでなく、魚全体に生臭い液体が再コーティングされてしまうのです。
料理専門店や鮮魚のプロが実践する下処理の手順は驚くほどシンプルですが、劇的な効果を発揮します。
まず、サク全体にごく薄く塩(サク1本200gに対して約1〜2g程度)を均一に振り、キッチンペーパーで包んで冷蔵庫に5〜10分置きます。浸透圧の作用によって表面の生臭いドリップがペーパーに吸い出されます。その後、日本酒を少量湿らせた別の清潔なペーパーで表面を優しく拭き取る、または素早く氷水で洗い流して即座に水気を完全密着して拭き取るのが鉄則です。このひと手間を挟むだけで、魚の身がキュッと引き締まり、タレを和えた瞬間に調味料の味が角切り肉の表面にピタリと吸着するようになります。