このスクールを率いた校長・戸塚宏の存在を抜きに、この問題を語ることはできない。彼は独自の理論を展開した。人間の精神的な弱さは「脳幹の鍛え不足」に原因があり、極限状態のストレスと体罰こそが生命力を呼び覚ますのだと。
驚くべきは、この極端な持論に多くの著名人が賛同の声を上げた点だ。中でも作家で政治家の石原慎太郎は、戸塚の掲げるスパルタ式教育を力強く後援し、支援組織の設立にまで関わった。校内暴力や家庭崩壊が毎日のようにテレビを騒がせていた当時、「理屈抜きの厳しい規律」を待望する世論の熱気は確実に存在していた。
「殴らなければ治らない悪がある」という言説は、疲弊した保護者や教育に絶望した大人たちの心を掴んだ。戸塚ヨットスクールは、社会が抱えきれなくなった若者たちを力づくで押し込める、都合の良い防波堤として機能してしまった側面を否定できない。