患者が最初に直面する最大の認識ギャップは、「点滴の抗がん剤に比べて、自宅で飲める錠剤やカプセルだから身体へのダメージも少ないだろう」という思い込みです。外来通院治療室の看護師や腫瘍内科医の現場観察によると、服用開始から1〜2週が経過した段階で、想定以上の全身倦怠感や食欲不振に直面し、精神的なショックを受けるケースが珍しくありません。
特に注視すべきは、目に見えない骨髄機能の低下(骨髄抑制)です。好中球減少による易感染性や血小板減少による出血傾向は、自覚症状が乏しいまま急速に進行することがあります。また、オテラシルカリウムの働きによって消化管毒性は従来のフッ化ピリミジン系製剤より抑えられているものの、腸管粘膜の修復速度を上回るダメージが蓄積すると、激しい下痢や吐き気が突発的に発生します。
一方で、患者の心理的負担となりやすいS-1抗がん剤脱毛割合について検証すると、点滴で用いられるタキサン系製剤(パクリタキセルやドセタキセル)やアントラサイクリン系製剤のように「ほぼ全員が完全に頭髪を喪失する」という頻度ではありません。臨床データ上の発現率はおよそ10%から20%程度にとどまり、多くは軽度から中等度の毛髪菲薄化(髪の毛全体のボリュームダウン)で経過します。しかし、外見の変化は脱毛にとどまらず、後述する特有の皮膚症状として表層化するため、事前の正確な知識が不可欠です。